ワクチン接種やフィラリア予防など、病院に来院する機会は年に数回あると思います。
そのとき、動物病院で行う身体検査ってとても大切なことです。
今回は、予防目的を含め、動物病院に来院したとき、獣医師はどのような検査を身体検査と位置付けて行っているのか、解説したいと思います。
まずは診察室に入ってくるところから
猫はキャリーで来院することがほとんどですから困難なのですが、犬の場合は診察室に入ってくるまでの間に、足の運びを観察してびっこがないか、呼吸の状態がおかしくないか(これは、診察が始まると途端に緊張して呼吸が早くなったりする子がいるため、始まる前に、ある程度観察します)、皮膚炎によっては、独特の匂いがあるので、入ってきた瞬間の匂いはどうか、その辺りを観察します。
そして、診察台に上がります。当院では、見落としがないようにするため、必ず鼻の先から始め、順番に尻尾のところまでチェックしていくようにします。
体重は一番の健康バロメーター
当院では、散歩のついでに体重を自由に測ってもらえるように、待合室に体重計を設置していますので、ワンちゃんは診察室に入る前に、あらかじめ体重計測が終わっていることがほとんどですが、猫ちゃんの場合は診察台の上で体重測定を行います。
体重測定は、健康のバロメーターとしては、非常に優秀です。人間と違い、犬猫は暴飲暴食をしませんので、1か月で体重の増減が著しい場合には、原因が必ずあると考えます。
何より、体重測定は動物への負担が一切ないのが利点です。
頭の先から、目・鼻・耳のチェック
まずは鼻。鼻水の色や量、くしゃみや息詰まったような呼吸をしていないかをチェック。
その次に、目。アッカンベーして結膜や白目が赤く充血していないか、黄疸はないか、瞬膜という目頭のところに付属している器官に異常なないか、目ヤニの色や量、涙の分泌などをチェック。
そして耳。耳垢の色や量、性状を調べ、耳の穴(外耳道)が赤くなっていないか、アトピーやアレルギーで多いのは、耳垢は多くないのに、耳の周りだけが赤いという状況です。
このことを、身体検査で見るだけでアトピーやアレルギーを疑うこともできます。
歯石は大丈夫?口の中のチェック
歯垢や、歯垢が固まって付着してしまった歯石のチェック、歯肉炎や歯グキの色、舌の状態を観察します。猫では口内炎の発見にもつながります。
また、貧血や黄疸という症状も、歯グキの異常を観察することで、早期発見に繋がる場合があります。
ちなみに、3歳以上のワンちゃんの80%以上は歯周病と言われています。
腫瘍や炎症の判断にも用いるリンパ節のチェック
一番触って分かりやすいのは、下あごにある下顎リンパ節というところです。そこから順番に、脇の下、膝の下と進んで、各リンパ節を触診します。
強い炎症や、腫瘍でも腫れてくる器官です。身体検査では、重要な触診の部位に含まれてきます。
聴診
聴診器を使って、心臓の音だけではなく、肺の音(呼吸音)も聴きます。また場合によっては、腸の動きを確認するために、お腹の音を聴いたりします。
被毛、皮膚、体幹のボディチェック
毛艶やフケの状態、皮膚が赤くなったりカサカサしていないか、皮膚にできものができていないか、出べそ(臍ヘルニア)はないか、去勢していない男の子は、精巣が正常かどうか、女の子の場合は乳腺にしこりがないか、などを確認します。
さらに、お腹を触ってみて、臓器以外の、硬いしこりが触知されないかどうかを、チェックします。
関節・四肢のチェック
年齢とともに、関節が動く範囲(可動域)が狭くなってきます。肩・肘・手首・股関節・足根関節を動かしてみます。
また、膝のお皿(膝蓋骨)の脱臼がないか、確認します。
ダックスや、老齢犬に多い椎間板ヘルニアや変形性脊椎症を伴ったワンちゃんは、足先の感覚が鈍くなります。
足の甲を床に着けたとき、すぐに元のポジションに戻せるか、爪が異常な削れ方をしていないかなどを、チェックして、総合的に関節の病気をチェックします。
いかがでしょうか。病気ではなくワクチン接種やフィラリア症予防のために病院を訪れたとしても、これだけのことは最低限、当院では行います。また、身体検査は特別な料金で行うわけではなく、診察料に含まれています。予防の目的で来院して頂いて、大きな病気が見つかるというケースも少なくありません。また、早期発見・早期治療によって、治療の成功率を上げることや、寿命を延ばすことができます。病院で行う身体検査の重要性を、ご理解いただけると幸いです。